未熟児網膜症(みじゅくじもうまくしょう)とは

未熟児網膜症は早産で生まれた低出生体重児の眼の中で異常な血管が増殖する病気です。

    未熟児網膜症とは

    未熟児網膜症とは、早産で生まれた低出生体重児の眼の中で異常な血管が増殖する病気です。網膜血管が成長途中で生まれると、網膜血管の成長が止まり、やがて血管の先端で異常な血管の増殖などが起こります 1)。未熟児網膜症のタイプによっては自然に治癒することもありますが、重症化した場合、異常に増殖した血管とその周囲の線維結合組織により網膜が引っ張られたり、はがれたりすることで、視力低下や失明につながる可能性があります。また、治療により一時的に症状が回復した後に、ふたたび未熟児網膜症の症状が現れることもあります。

    1)東範行(編): 未熟児網膜症, 三輪書店, 2018 第1章

    日本における未熟児網膜症

    未熟児網膜症の患者数は国内で年間約5000人 2)と報告されています。また、2017年の政府統計の患者調査では約1000人※、3)が医療を受けていると報告されています。

    ※調査日現在において、継続的に医療を受けている者(調査日には医療施設を受療していない者も含む)の数を推計した。

    2)未熟児網膜症研究班:未熟児網膜症(平成21年度) (参照 2022年9月)
    3)政府統計の総合窓口:患者調査(平成29年患者調査) (参照 2022年9月)

    未熟児網膜症の進行

    未熟児網膜症の進行

    ①網膜血管が成長途中で生まれると、網膜血管の成長が止まります。そのため、眼の後方の領域には血管がありますが、前方には血管のない領域がみられます。これらの領域の間には白い境界線がみられます。

    ②白い境界線がより厚くなり、内側にある硝子体の方向に盛り上がってみえるようになります(隆起)。隆起によって正常な網膜血管の成長が阻まれ、網膜の表面上では異常な血管が増殖しはじめます。

    ③異常な血管が硝子体の方向に伸び始めます。この血管から漏れ出した成分によって周囲に線維結合組織がつくられます。(この組織が収縮することで網膜が引っ張られることがあります。)

    ④線維結合組織が収縮することで、網膜が引っ張られ、一部がはがれます。(部分的網膜はく離)

    ⑤網膜全体がはがれます。(全網膜はく離)

    未熟児網膜症とVEGFについて

    網膜血管の成長には血管内皮増殖因子(VEGF)が関わっています。通常、発達途中の眼の中では、血管がまだ伸びていない領域から適度のVEGFが放出されて、血管の成長が誘導されます。しかし、未熟児網膜症では、血管のない領域が部分的に酸素不足の状態(虚血状態)となり、多くのVEGFが放出されます。その結果、血管の先端部で異常な血管が増殖します※、1)

    ※出生週数が極端に早いと、血管のある眼の後方部分も虚血状態となって、後方で異常な血管が増殖する場合もあります。

    未熟児網膜症の進行

    1)東範行(編): 未熟児網膜症, 三輪書店, 2018 第1章

    眼の構造とはたらき

    眼に入った光は、水晶体などで屈折し、網膜に達した後、脳で認識されます。カメラにたとえると、水晶体はレンズ、網膜はフィルムのはたらきをしています。

    ものが見える仕組み 人の仕組み

    <人の仕組み>

    ものが見える仕組み カメラの仕組み

    <カメラの仕組み>

    眼の基本構造

    網膜血管の成長

    網膜血管は、妊娠15週頃に眼の後方から成長をはじめ、枝分かれして眼の前方へ成長します。成長が完了するのは妊娠39~41週頃といわれています。通常、網膜血管が十分に成長した後に出生します。

    正常な網膜血管の成長

    眼科の検査

    未熟児網膜症を診断するため、もしくは治療の経過をみるために、主に次のような検査が行われます。

    ・眼底検査

    眼の奥に光をあてて、網膜を直接観察します。網膜血管の様子を見ることができます。

    ・蛍光眼底造影

    蛍光色素の入った造影剤を静脈から注射して、眼底カメラで観察します。広画角カメラを使うことで、眼の中の広い範囲の血管を鮮明に見ることができます。
    ただし、副作用としてアナフィラキシーショックや、皮膚や尿の黄染が起こることがあります。

    ・その他の検査

    前述の検査が行えない場合や、それだけでは不十分な場合には、補助的に他の検査を行う場合があります。検査には、超音波Bモード検査、光干渉断層法などがあります。

    (検査の内容は施設によってことなることがあります。)

    未熟児網膜症の治療法

    未熟児網膜症に対して、現在行われている治療法には以下のものがあります。

    抗VEGF療法

    未熟児網膜症での異常な血管の増殖にはVEGFが関与しています。そのためVEGFのはたらきを抑えるお薬を眼に注射します。アイリーア®による治療も抗VEGF療法です。

    レーザー光凝固

    レーザー光線を網膜の血管のない領域全体に照射して、異常な血管の増殖を抑えます。

    硝子体手術

    未熟児網膜症が進行し、網膜が硝子体側にはがれた場合(網膜はく離)、硝子体手術で網膜を元の位置にもどします。

    監修 産業医科大学 眼科学教室 教授 近藤 寛之 先生